(4) 東大農學部収藏のヤマイヌの標本 「採集と飼育」昭和23年11月号
福 田 信 正
ヤマイヌ(日本狼)Canis hotophilax Temminckは日本固有の動物であったが、明治の末期、その姿を全く地上より没し去り、最後の捕獲記録は明治38年1月23日、奈良縣吉野郡高見町鷲家口で米人アンダーソン氏が折柄通りかかった獵師から♂1頭を購入したことが報告されている。
現在では唯一の剥製が、上野公園内にある東京科學博物館に、明治初年採集福島縣産の雄1頭が陳列されているのは大方の知るところであるが、今回さらに日本哺乳動物史上、貴重な1例が追加されたのが、東大農學部所蔵のものである。
來 歴
名札に、「山犬、第2回博覧會出品物、明治14年6月、岩手縣より購入」と記載されている。
保存の状態
陳列久しいためか毛が所々浮上っているが、躯幹の大部分は健在で、毛を摘んでも容易に抜けない。
四肢の下部は虫害により毛皮が脱落して骨部が見え、尾も中断され骨だけがあらわれているのはおしい。
一般外貌
性は♀の成獣で輕快な中型犬を思わせ、一見脚短く耳小(生時は直立を十分想像される)。
鼻黒で吻尖り差尾である。
標本は鼻にシワをよせ威嚇の状を示すため、歯の大部分は外部からうかがわれる。
被 毛
この動物は冬毛で綿毛も十分密生し毛質は直滑毛、全体よほど褐色しているが、地毛は淡灰褐色で毛尖に行くに従って濃さを増すが、顔面四肢は著しく褐色を見受ける。
躯幹は長毛で被われ、特に頸、背部が著しく、背部78mm尾毛53mmを算する。
上膊前方より膝にわたり、それぞれ太い黄褐色1本の線條を認める。
終に快よく研究の便並に指導を與えられた應用動物學教室の鎬木外岐雄博士、体各部測定に協力を願った馬學教室の下田與四郎、大井澄雄の両氏、また撮影の労をとれれた家畜外科學教室の臼井和哉、野口一郎両氏にそれぞれ厚くお礼を申し上げる。
第1表 東大農學部収藏のヤマイヌの標本の測定(mm)
歯長


第2圖 ヤマイヌの標本(正面)
